2026.10.03

「エンディングノート」という言葉を、ニュースや書店、自治体の講座などで目にする機会が増えました。気にはなっていても、「まだ早い」「何から書けばいいのかわからない」と手が止まっている方は多いと思います。
この記事では、エンディングノートの基本から、具体的な項目、続けるコツ、注意点までを順に解説します。完璧に仕上げる必要はありません。読み終えたら、まず1行だけ書いてみてください。
エンディングノートとは、自分に万一のことがあったときや、判断力が落ちたときに備えて、希望や大切な情報を家族に伝えるためのノートです。決まった形式はなく、市販のものを使っても、普通のノートやパソコンのファイルに書いてもかまいません。
主に次のようなことを書き残します。
「死の準備」というと重く聞こえますが、実際は「家族が困らないように情報を整理し、自分の思いを伝えるノート」です。これからの暮らしを見つめ直すきっかけにもなります。
よく混同されるのが遺言書です。大きな違いは法的効力の有無です。
遺言書は、民法で定められた方式に従って作成すれば、財産の分け方について法的な効力を持ちます。一方、エンディングノートには法的効力がありません。「この土地は長男に譲る」と書いても、それだけで相続の手続きが決まるわけではありません。
そのかわり、エンディングノートには次のような自由さがあります。
財産の分け方をはっきり決めておきたい場合は、エンディングノートとは別に遺言書の作成を検討してください。必要に応じて、弁護士、司法書士、行政書士などの専門家に相談すると安心です。両方を用意し、ノートに「遺言書は〇〇に保管している」と書いておくのが理想的です。
亡くなった直後、家族は葬儀の手配、役所への届け出、各種契約の解約など、短い期間に多くの判断を迫られます。銀行口座や保険の情報がわからず、探すだけで何日もかかることも珍しくありません。情報がまとまっていれば、家族は慌てずに動けます。
延命治療をどうするか、どんな葬儀にしたいかといった希望は、元気なうちに伝えておかないと、家族が「本人はどうしたかっただろう」と悩むことになります。書いてあれば、家族は迷いや後悔を抱えずに済みます。
書く作業は、自分の人生や暮らしを振り返る時間になります。「本当に大切なものは何か」「これからやりたいことは何か」が見えてきて、前向きな気持ちになったという声もよく聞きます。
早すぎるということはありません。60代、70代の方はもちろん、入院や手術の前、定年退職、親の介護や相続を経験したときなども、書き始めるよいタイミングです。
市販のエンディングノートは、項目があらかじめ用意されているので、書き出しやすいのが利点です。自治体が無料で配布している場合もあるので、お住まいの市区町村の窓口やホームページを確認してみてください。パソコンやスマートフォンで管理する方法もありますが、その場合は「家族がどうやって開くか」まで考えておく必要があります。
誰に読んでほしいのか、どこに置くのかを先に決めておくと、書く内容も決まりやすくなります。
すべてを埋める必要はありません。書きやすいところから始めてください。
氏名、生年月日、住所、本籍地、血液型、持病、かかりつけ医、アレルギーなどです。緊急時に役立つので、最初に書いておくと安心です。
亡くなったときに連絡してほしい人の名前、関係、連絡先を書きます。年賀状のやり取りだけの友人や、昔の職場の仲間など、家族が知らない人こそ書いておくと助かります。
ここは家族がもっとも悩みやすい部分です。気持ちが変わることもあるので、書いた日付も添えておきましょう。
葬儀の形式(一般葬、家族葬など)、規模、宗派、遺影に使ってほしい写真、呼んでほしい人、お墓や納骨の希望などを書きます。「特にこだわりはない」「家族に任せる」と書くのも立派な意思表示です。
預貯金(金融機関名と支店名)、証券口座、不動産、生命保険、年金、借入やローン、クレジットカード、サブスクリプションなどです。
ここで注意したいのは、暗証番号やパスワードの扱いです。ノートに直接書くと、紛失や盗難のときに危険です。「どこに何があるか」を書き、番号そのものは別の方法で管理するほうが安全です。
スマートフォンのロック解除方法、メールアドレス、SNS、ネット銀行、電子マネー、クラウド上の写真などです。持ち主が亡くなると、デジタルのものは存在すら気づかれないまま残ってしまうことがあります。サービス名だけでも書いておくと、家族の助けになります。
感謝や思い出、伝えそびれたことを書きます。長い文章でなくてかまいません。「ありがとう」の一言でも、受け取った人にとっては大きな支えになります。
生い立ち、思い出の場所、好きなもの、人生で大切にしてきた考え方などです。必須ではありませんが、書いておくと、家族があなたを思い出すよすがになります。
エンディングノートで一番多い失敗は、全部書こうとして挫折することです。「今日は連絡先だけ」「今日は好きな食べ物だけ」といった小さな単位で進めましょう。
順番どおりに書く必要はありません。医療の希望のようにすぐ決められない項目は、空欄のまま先に進んでかまいません。
いつ書いたかがわかれば、あとで読んだ人が「これは最新の希望だ」と判断できます。情報や気持ちが変わったときは、書き直して新しい日付を入れましょう。
預貯金や契約の情報は変わりやすいものです。鉛筆で書いて消せるようにしたり、ファイルで管理して更新しやすくしたりすると続けやすくなります。
誕生日や年末など、見直す日を決めておくと習慣になります。家族構成や健康状態、暮らし向きが変わったときも、見直しのタイミングです。
一人で書くのが難しいときは、家族と話しながら進めるのも手です。話す中で、お互いの考えを知るきっかけにもなります。ただし、無理に話し合う必要はありません。書いたあとで、存在だけを伝えるのでも大丈夫です。
せっかく書いても、家族が見つけられなければ意味がありません。一方で、誰でも見られる場所に置くのは、プライバシーや防犯の面で心配です。「このノートは〇〇の引き出しにある」と、信頼できる家族に伝えておきましょう。
口座番号、暗証番号、マイナンバーなどの重要な情報をまとめて書くと、紛失や盗難のときのリスクが高まります。必要最低限にとどめ、詳細は金融機関の書類や別の方法で管理するなど、工夫してください。
財産の分け方、相続人以外への遺贈、事業の承継などは、エンディングノートだけでは実現できません。遺言書や、判断力が低下したときに備える任意後見契約、家族信託などの制度もあるので、必要に応じて専門家に相談してください。
「必ずこうしてほしい」と強く書きすぎると、家族の負担になることがあります。実際の状況によっては、希望どおりにできない場合もあります。「できる範囲でお願いします」といった気づかいの一言を添えると、家族も受け止めやすくなります。
エンディングノートは、人生の最期のためだけのものではありません。今の自分を整理し、大切な人に思いを伝え、これからの毎日を安心して過ごすためのノートです。
最後に、書き方のポイントをまとめます。
最初の一歩は、とても小さくてかまいません。自分の名前と生年月日、好きな食べ物、大切な人への「ありがとう」。そのどれか一つを書くところから始めてみてください。